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The Outcasts 外伝・Nobody but she told me.・2

その日の飲み会は、前期の試験が終わった直後の納会という名目だった。

夏休み直前という開放感もあったせいもあったし
当時はまだ一気飲みのようなことも普通に行われていたので
飲み会が終わる頃には何人かの飲み慣れない人間が潰れていた。

「先輩、A子ちゃんがどこか行っちゃったんです」

酔って騒いでいるうちに、姿を見失ったのだろう、
一人の女子大生(B子としよう)が言ってきた。
同じ大学ではなく、どこかの女子大に通っていた子だった。

ノリが良くやたらとしゃべる子だったように記憶していたが
宴会中の様子とは違って、やけに不安げだった。

「トイレとかは探した?」

僕がそういうとB子はすぐにトイレへと行った。
そしてしばらくして戻ってくると

「一つだけ鍵がかかってて呼んでもずっと出てこないんです」

と小声で言ってきた。

「鍵がかかってるんじゃ起きるまで待ってないとダメじゃんか」

僕がそう呟くとB子は

「でももう飲み会終わりですよね、どうしよう。
先輩ちょっと来てください」

そう頼んできた。
正直に言うと、A子という女の子がどんな子なのか
僕には全く印象が残っていなかった。
多分席も離れていたし、話もしなかったのだろう。

(めんどくさいなぁ・・・)

心の中ではそう思ってはいたのだけれど
一応宴席では先輩風を吹かせていたわけだから
邪険にすることもできず僕は女子トイレまで向かった。

B子は再びトイレに入って、鍵がかかっている個室に向かって
何度もノックをしたり声をかけたりしていたけれど
中からは何の反応も無い。

トイレから出てきたB子は思いがけないことを言い出した。

「今、トイレの中誰もいないんで、
先輩、中に入って上の隙間から見てください。
あたしじゃ届かないけど先輩の身長なら届きますから」

「ちょ、ちょっと待てよ。女子トイレの中に入るのか?
別の人が入ってたらどうすんだよ」

僕が慌ててそう言うと、B子は

「A子しかいないですよ、絶対。
先輩しか頼む人いないんです。お願いします。
周りの皆には黙ってますから。
あ、あたしここで人が入ってこないように見てます」

とすがるような表情で言う。
仕方なく僕は女子トイレの中に入って
鍵のかかっている個室を何度かノックして声をかけてから
上の隙間に手をかけて、中を覗き込んだ。

「あちゃー・・・潰れてるわ・・」

あられもない下着姿でA子と思しき女の子が酔い潰れていた。
顔ははっきりとは見えなかったけれど、服装には見覚えはあった。
そして僕は一旦トイレの外に出て、B子にそう伝えた。
(あられもない姿だったことはもちろん省いた)

B子は即座に言った。

「先輩、上から入って鍵開けて連れてきてください」

その時点では薄々予想は出来ていたので
僕はもう半ばヤケクソで頷き、
女子トイレの個室の上から個室に侵入するという変質者的な行為を
誰かに見咎められた時に正当化する理屈を
少し酔った頭で必死に構築しながら取り掛かった。

(これはこの子の友人に依頼されて仕方なく、
いや、それじゃダメだ。依頼なら何でもするのかってなっちまう。
緊急避難であって違法性が阻却されるって言えばいいのか?
明らかに正当防衛ではないよな。あれ、緊急避難の要件ってなんだっけ?)

真面目に勉強しておけば良かったのだけれど
その時はそんなことを考える暇は無い。
行為自体はあっという間に終わることだ。

僕は個室へと降りると、A子の衣服を整えてやり
A子を背中におぶって個室の鍵を開けて外に出た。

「吐いた形跡はあるけど後は大丈夫?」

一刻も早くその場から立ち去りたい一心で
僕は建前丸出しでB子に尋ねる。

もちろん解放されるはずも無かった。

「あたし一人じゃ連れて帰れないです・・・。
先輩お願いします。新宿からなら一本ですから」

B子は泣きそうな顔でそう言う。
帰ろうと思っていた僕は、A子をおぶったままため息をついた。

「一本ってどこよ?」

「狛江です。あたしん家豪徳寺なんで途中まで一緒に行きますから」

「・・・俺小田急線じゃないんだけど」

「この時間ならまだ上りもあるから大丈夫ですよ。
それに、頼めそうなの先輩しかいないんです・・」

確かに時刻はまだ11時を少し回ったくらいで
狛江まで行って帰ってくることは別に不可能ではなかった。

(嫌だって言ったら悪者になるの俺なんだよな・・)

世の中って理不尽だなと思いつつも
僕はもう諦めの境地で頷いて駅の方向へ歩き出した。

歌舞伎町から小田急線の駅まではかなり距離があって
僕は汗だくになりながらもA子をおぶって歩いた。
唯一の救いと言えば、歌舞伎町には同じような酔っ払いが大勢いて
女の子をおぶって歩く僕の姿は特に異様ではなかったことくらいだった。

ところが。

「うわっ、また吐いた」

歩いているうちに、振動で状態が変わったのか、
A子は酔い潰れたまま嘔吐したのだ。

肩口にあったA子の口から、
微量ではあったけれど胃液のようなものが流れ出て
僕の着ていたTシャツを部分的にオレンジ色に染めた。

(何この臭い・・マジかよ・・これ着たまま帰るのか・・)

混みあった小田急線の中で、異臭を放つ僕。
そして潰れたままのA子。泣きたい気分だった。

豪徳寺まで来ると、B子はA子のバッグから学生手帳を取り出して
A子の住所を書き写すと、僕にそれを渡して

「じゃ、後はお願いします。変なことしちゃダメですよ。
後でA子の家に電話しますから」

といって降りていってしまった。
普通一緒について来るもんだろうと思いながらも
いちいちそういうことを言うのが面倒で
僕は曖昧に頷いてB子と別れた。

電車が狛江に着き、僕はタクシーを拾って
A子の住所を告げる。
ものの数分でA子の家には着いた。

表札を確かめて、呼び鈴を鳴らす。
すぐにA子の母親らしき人物が出てきた。

「あ、夜分にすいません。A子さんと飲み会で一緒だったんですが
A子さん、少し飲み過ぎたみたいで・・」

僕がそう言うと、母親は

「まぁいやだ、この子ったら。ちょっとここまで上げてください」

と言い、僕は玄関先までA子を連れて行き、
A子をそこに横たえて帰ろうとした。

すると。

「ちょっと待ってください」

母親は短くそう言うと、家の奥へ引っ込んだ。

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The Outcasts(読切り短編)21~30」カテゴリの記事

コメント

一人暮らしじゃなかったんですか><
怖い、怖いよ~

投稿: このきー | 2009年5月10日 (日) 21時01分

人が良すぎです><
まあ、こういう場合は誰かがケツを拭かないと、後でとんでもないことになりかねなのでしゃあないですが。

投稿: ガス | 2009年5月10日 (日) 21時43分

あれ、変なことしなかったんですね、先輩。

投稿: 通りすがり | 2009年5月11日 (月) 02時14分

>このきーさん

この後悲劇が!

>ガスさん

役回りってあるもんですよね。
ホントしょうがないんですが。

>通りすがりさん

僕を先輩って呼ぶってことは君、山下だろ。
君がちゃんと見てなかったから
僕は大変な目にあったんだぞ><

投稿: 管理人 | 2009年5月11日 (月) 17時54分

さくらこさーん

無限ループって怖くね?

投稿: | 2009年5月12日 (火) 20時56分

>名なしさん

ごめんなさい、リンク入れるの忘れてました><

投稿: 管理人 | 2009年5月12日 (火) 22時00分

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