« The Outcasts・29-3 | トップページ | 天鳳杯プレマッチ・配信案内 »

The Outcasts・29-4

出てきたのは意外なことにカワムラだった。

自力で歩けるのか・・

僕は少し意外だった。
てっきり出てくるのはオーナーだと思っていた。

カワムラは中でボッコボコに殴られたあげく、
気絶していてもおかしくないのだ。
ところがカワムラの顔には大きな変化は無かった。
泣いたのだろうか、少し目が充血しているくらいだ。

そしてカワムラは、僕のところに来て
オーナーが呼んでいるということを小声で言った。

カワムラの処遇については、
それがどうであれ当然聞いておかなければならなかったから
僕はすぐにモニター室に入った。

腕組みをしていたオーナーはしばらく黙っていたが
やがてゆっくりと口を開いた。

「カワムラな、責任者外すから。またお前の下で使え」
「え?使うんですか?」

意外な指示に僕は驚いた。
まさか単なる降格だけで済ませるのだろうか。

「働かせて給料から返させなしょうがなかろうもん」
「いや、ですがそれだけでは・・・」

店の金を使い込んだ人間をあまりに甘い処分で済ませると
甘く見た誰かが同じことをしかねない。
仏心がいつか仇にならないとも限らないのだ。
甘いんじゃないですか、僕は言外にそう言ったわけだ。

けれどオーナーは即座に言った。

「ええんや」

どうしても納得が行かなかった。
その数百万を稼ぐために、どれだけの苦労を必要とするだろう。
客の罵声を浴びて、極道や警察に神経をすり減らしながら
現場が懸命に抜いてきた金だ。
使い込んでおいて分割で埋めれば済むというものではない。

僕はオーナーになおも食い下がった。

「カワムラさんの説明はどうだったんですか?
なんでそんなことしたんですか?」

「お前が言ったルミや。
あれにええ顔したかったんだと。
オレはこれだけ張る器量あるんだと見栄張りたかったんだと。

一回手を着ければあんなもんあっと言う間や。
分かっとっても止まらんもんや」

「そんなしょうもない理由で500万ですか・・」

予想通りとは言え、やはり呆れる気持ちはあった。

「だったら尚更そんな甘い顔してたら・・」

そう言いかけた僕にオーナーが怒鳴った。

「せからしか!預けたらいかんもんに預けたこっちも悪かろうが!
俺もお前もあいつがそういう性分なんは分かっとろう!」

正直言って、納得はできなかった。
けれど、そこまでの権限が自分に無い以上、
従わなければならないのが雇われている身の宿命だ。

その日以降、僕はカワムラをある意味で常に色眼鏡で見るようになった。
誤魔化すとか、ヨコを入れるとか、そこまでは思っていなかったが
何かあれば歯止めが利かない人間として見るようになったのだ。

それを知ってか知らずか、カワムラは黙々と働き続けた。
僕は真相を誰にも話さなかったけれど
やがて誰もが事の次第を知るようになった。

それはそうだ。

金が無いはずのカワムラがルミの店で大きな勝負をして負け、
その直後に責任者を外れたのだ。
その二つを結びつけるのはそれほど難しいことではない。

オーナーが何故そこまでカワムラに寛容だったのか
僕が知ったのはしばらく経過した後のことだった。

12月になって、ミーティングを終えて雑談していた時に
オーナーがポロッと言った。

「のう、カワムラ、お前正月帰るんか?」

その問いかけから、カワムラとオーナーはしばらく地元の話で盛り上がり
やがて高校の先輩後輩の間柄であることも判明したのだ。

九州の田舎町の出身だったオーナーが
同郷のカワムラを可愛がる気持ちは、何となくは理解できた。
田舎から都会に出てきている人間の地元意識とは、そういうものだ。

誰も頼る者がいないままに東京に出てきて苦労したオーナーは
カワムラにかつての自分を重ねたのかもしれない。

その後、僕は別の二号店に移り、カワムラは残った。
月にいくら返済しているのかも知らなかったから
カワムラの残債がいくらかももちろん知らない。
もしかしたら、今頃は完済しているかもしれない。

カワムラは、今度は、博打を止められるだろうか。

博打打ちというのは一種の病気で
完治するというのはなかなか難しい。
完治したと思ったらあっけなく再発する。

あの日、金を使い込んだ日に見たものが
本当は破滅の淵だったということに、
カワムラが気づいていればいいのだけれど。

最初から読む

|

« The Outcasts・29-3 | トップページ | 天鳳杯プレマッチ・配信案内 »

The Outcasts(読切り短編)21~30」カテゴリの記事

コメント

女のためにというかそれを切っ掛けにして、自分の金と他人の金の区別もつかなくなりますか('A`)
しかも内部にいて博打の仕組みが分かっているはずなのに、それでいてまたもや一発賭けてしまう。

The Outcastsシリーズの中で今回が一番怖かったですね。
怖いと思うという事は、私にもその傾向があるのかもしれないので二重に怖いですw

投稿: ガス | 2009年1月 8日 (木) 19時20分

九州の田舎町。。。
地域柄かもしれませんが、九州は博打病患者たぶん全国でもトップクラスかもです。
勿論僕も重症患者でしたがw
博打って一時はやめれると思うんですが、ある時スイッチが入ってしまうと
歯止めが効かない気がするんですけど。僕の意思が弱すぎるだけでしょうか?

投稿: ミツイ | 2009年1月 9日 (金) 00時32分

>人は、負けるからギャンブルを続けるのだ。

これは博打中毒の構造を端的に表現しきっている至言だと思います。
ギャンブル勝ち続けようとするのは、とても苦しいです。
その点、負けの快感は簡単に何度でも味わえます。
私個人としては、ボロボロの成績になっても天鳳を続ける自分を真っ先に連想しましたがw

カワムラさんは一度破滅的な負けを味わってしまっているので、普通の生活に戻るのは非常に困難でしょうね。
「我が身を滅ぼす程の敗北」
普通の人が一生味わう事の無いレベルの「負けの快感」を二度も体験してしまっているのですから。
破滅の味は、さぞかし甘美なんだろうなぁ・・・

投稿: 巷の打ち手 | 2009年1月 9日 (金) 15時06分

>ガスさん

お金って持ってるだけで人間変えます。
これは自分のでも他人のでもです。
怖いですよね。

ガスさんもそうならないようにしてください。
僕も気をつけます><

>ミツイさん

そうなんですよね。
僕が知る限り、九州の人の博打の熱ってかなりなもんです。
気質ってあるんですね。

>巷の打ち手さん

天鳳はどんだけハマっても経済的には知れてます。
というか健全でさえあります。
ただし、家庭や生活を犠牲にすると
これはもう洒落にならなくなりますが。

天鳳廃人にならないようにしてください><

投稿: 管理人 | 2009年1月 9日 (金) 20時24分

今回の話は九州人の気質をよく表した傑作ですね(^-^)

気が荒くて情に脆いってのはよく言われますが、仲間と言うか身内意識が非常に強いのも特徴です。
すぐに、
「彼の敵は我が敵」
と言う考えをします。
この思考は、家族レベルから九州全土まで広がり、独特の言葉を共有する事で結束を強める傾向にあります。
幼い頃より「男の美学」を叩き込まれ、仲間の為の自己犠牲を当然のものとして育つのも要因でしょう。


助けられるなら助けるのが当然!
助けられなくても助けようとするのが当然!
全力をもって助けられないなら一緒に散るだけ。
多分、大半の九州人の仲間意識はこれだと思います。

他地域の人にはちょっと理解出来ないくらいに熱苦しいですけど(笑)

投稿: 子皮 | 2009年1月10日 (土) 09時33分

>子皮さん

九州の文化って独特ですよね。
良くも悪くもですけどw

投稿: 管理人 | 2009年1月11日 (日) 22時12分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« The Outcasts・29-3 | トップページ | 天鳳杯プレマッチ・配信案内 »