ついでと言ってはなんだが
創作と呼ぶにはずいぶんと粗いけれど
僕が初めて人に見せるために書いた文章を思い出したので
ここに恥を忍んで載せてみる。
備忘録のようなブログにはしたくないのだけれど、
いつか僕が今よりもっと年を取って
16歳の頃のことなど思い出せなくなった時のために。
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(・・・暗いな・・)
男は目を覚ました時にそう思った。
明かりを求めて体を起こそうとすると、体が焼け付くように痛んだ。
痛む部分に思わず手を当てると、そこが熱を帯びていることに気づく。
鞭か何かで思い切り叩かれたような痛みだ。
のろのろと起き上がり、スイッチを手で探るけれど
いつもの場所にスイッチは無い。
しばらく壁を手で探った後、
ようやく男は部屋のスイッチを探し当てて明かりを点ける。
明かるくなって目に入った部屋の光景に、男は驚く。
そこは男の住んでいる部屋ではなかった。
殺風景な部屋の中にはベッドと机が一つ。
窓にはカーテンすら着いておらず、部屋の外の風景は
日本では無いように見えた。
(ここはどこだ?)
男は混乱し、記憶を辿る。
(確か・・そうだ、俺はゴルフをしていたはずだ。
休暇を取って、友人と訪れた避暑地のゴルフ場。
その日は調子が良く、友人と握った賭けもほぼ勝てそうだった。
彼に勝つのはいつ以来だったか思い出せないくらい久しぶりだった。
ところが残り数ホールになって急に天候が怪しくなってきて
後2ホールというところで雷雨が降り出した。
もう止めようと言う友人に
俺は勝ちを確定させたくて半ば無理やりプレーを続行した。
「後2ホールくらい行けるさ。
俺がオナーだな。打っちまうぜ」
そう言って構えた瞬間、あたりが光って
俺は強い衝撃を受けて・・雷に打たれたのか?)
記憶はそこで途切れていて
男が懸命にその先を思い起こそうとしても蘇ることは無く
やがて男は思い出そうとすることを諦めた。
(とりあえずシャワーでも浴びるか・・)
男はまだズキズキと痛む頭を抱えて立ち上がる。
気づくと何も身につけていない。
バスルームに入って熱いシャワーを浴びた後、
髭を剃ろうと鏡を見た瞬間、
男はぎょっとしてシェービングクリームの缶を床に落としてしまう。
鏡の中には、男が認識している自分自身の像ではなく
まるで違う男性が映っていたのだ。
誰かが後ろにいるのかと思ってあわてて振り向いても
そこには誰もおらず
男が再び鏡を見ると、鏡の中の男も同じようにこちらを見た。
手を上げると、同じように手を上げて
顔を触ると同じように顔を触った。
(これが・・俺なのか?)
男は急いでバスルームから出て
改めて部屋を調べる。
ここがどこなのか、自分は何者なのか、
部屋の中に何か手がかりがあるかもしれない。
そもそも殺風景な部屋だから調べる場所は多くは無い。
机の中から出てきたのは、聖書と財布とキーホルダー、
そしてダイバーズ・ウォッチが一つと・・拳銃が一丁。
拳銃のホルスターは椅子にかけてある。
キーホルダーには鍵が二つ。一つはおそらくこの部屋ので・・
もう一つは車のだろう、三角の中に蛇のような模様が描かれている。
財布の中にはカードの類は何一つ無く、紙幣が数種類。
ポンドとドルと・・フランだろうか。
金額はかなり多い。全種類あわせると数十万円くらいはありそうだ。
次に男はクローゼットの中を調べる。
着替えになるような服を見つけてそれを着る。
ワイシャツとスーツのズボン。サイズはピタリと合った。
そして男は小さなボストンバッグを見つける。
中には下着の換えと・・パスポートが入っていた。
男はパスポートを開いて中を見る。
パスポートの写真は、先ほど見た鏡の中の男・・自分の顔だ・・、
国籍はイギリスのようだ。
「KENT SAIJO」
名前の欄にはそう記してあった。
もちろん男が認識していた今までの自分の名前ではない。
けれどこの部屋に住んでいるのが、この顔の持ち主であることは
さすがに男にも理解できた。
(いったいどういうことなんだ・・・)
男は混乱し、頭を抱える。
夢なのかとも思ったが、頭の痛みがそれを否定する。
これは間違いなく現実なのだ。
しばらく考えて、男は便宜的にこう結論を出す。
(あの時雷に打たれたのが原因なのかは分らないが・・
俺は、誰かの人格と入れ替わったんじゃないか?)
科学的には無茶苦茶な理屈だったが
そう考えないと辻褄は合いそうになかった。
その時、誰かが部屋の扉をノックした。
反射的に身を隠そうとして男は思い直す。
(いや、隠れたところでどうにもならない。
何にせよ、俺には失うものはない。
だったら手がかりが掴めるかもしれないじゃないか)
そして男は扉のところに行き魚眼レンズから外を窺う。
そこには若い女の姿が映っていた。
男は扉を開ける。
すると女は素早く部屋の中に入ってくる。
まるで猫科の動物のような敏捷さだった。
呆気にとられながら男は扉を閉めて女の方を向く。
すると女は一言も発することなく、男に殴りかかってきた。
咄嗟に男は女の拳を腕でブロックする。
休む間もなく、女は蹴りやパンチを飛ばしてくる。
最初のうち、男は無我夢中で防戦するだけだったが
やがて体が自然に反応するようになっていることに気づいた。
攻撃をブロックして女に反撃する。
女はそれを防ぎ、新たに攻撃してくる。
どれくらいその攻防を繰り広げただろうか、
突然女は攻撃の手を止めて言った。
「間違いなくあなたね、KENT」
呆気に取られる男を尻目に、
女は部屋のあちこちを調べるように動き回ってから
ベッドに腰をかけて男に言った。
「盗聴器は無いみたいね。心配したのよ。
あなたがあんな事故の直後にその場から居なくなるから」
それは日本語ではなく英語だったけれど
男の拙い英語力でもなぜか理解できた。
ただ、男はうまく返事が出来ずに、その場に立っていた。
女はそんな男の内心を知らないように話し続ける。
やや茶色がかった髪と白い肌、そしてダークブラウンの瞳。
かなりの美人と言っていいだろう。
「ねぇ、本当に体は何とも無いの?
あんな高圧電流の直撃を受けて平気だなんて・・」
「高圧電流?」
男はそう聞き返そうと思ったけれど
言葉はうまく出てこなかった。
ところが男の怪訝そうな表情を見て察したのか
女は心配そうな顔で続ける。
「あぁ、記憶が飛んでいるのね。無理ないわ。
あなたはね、例の施設に潜入する際に
流れていないはずの高圧電流の直撃を受けたの。
事前の情報収集部隊の完全なミスね。
司令部の誰もがあなたの死を覚悟したわ。
そして後方部隊があなたの死体を回収・・
ごめんなさい、そんな言葉使って。
・・あなたを迎えに現地に向かったの。
ところがあなたの体は影も形も見当たらない。
驚いた司令部がこの建物の外のカメラを見たら
あなたの部屋の窓に人影が・・あなたが映ったの。
そして私が確認に来たってわけ。
ねぇ・・あなたは直前で危険を回避したのかしら?
それともあなたは不死身なの?」
そう言って女は、男の首に腕を絡めてきた。
柔らかい唇が男の唇に触れる。
男は女の細い体を抱きながらも頭を働かせる。
(おそらくこのKENT SAIJOという男と俺は
完全な同時刻に数万ボルト以上の高電圧を受けたのだ。
そして何らかの理由で人格・・あるいは魂か・・が転移したのだ)
男はオカルトチックなことを信じるタイプではなかったが
理屈で分析できないことを非科学的だと切り捨てるよりは
便宜的に現実に当てはめることを選ぶタイプでもあった。
そして、男にとって一番しっくりくる現実的な解釈は
その、いわばオカルトチックな解釈だったのだ。
(もしそうだとすれば、もとの俺はどうなったんだろう。
ここがどこで、今の姿の俺は何者なんだろう。
例の施設へ潜入というのはどういうことなんだろう・・)
物思いに耽る男の体を離し、女が言う。
「こうしてはいられないわ。
計画が失敗に終った以上、ここも安全ではないかもしれない。
一旦ここを離れましょう」
女に促されるように、男は身支度をする。
クローゼットの中からネクタイを出して締める。
そして椅子のホルスターを肩から下げる。
ホルスターは両脇に拳銃を納められるようになっていて
男は右手で左脇から吊り下げようとして、うっかり拳銃を床に落とす。
重そうなゴトッという音で、男はそれが本物の拳銃であることを実感する。
とは言え、今までの男の人生で
拳銃をホルスターから吊るすというのが初めてだからか
男にはどうしても違和感が拭えない。
スーツの上着を取り出して、ボストンバッグを持つ。
女は扉のところで男を待っていた。
「さぁ行きましょう」
建物にはエレベーターと階段があったが
女はエレベーターのボタンを押してから
階段に向かって下に降りていく。
部屋が三階にあることを男は初めて知る。
外への出口のところで女は辺りの様子を窺ってから
外に停めてある赤い車を指差した。
「あれね」
男がキーホルダーの鍵を差し込むと
車のロックが外れる。
女は助手席側から車の下を素早くチェックすると
男に頷きかけて車に乗り込んだ。
(俺は左ハンドルの車、それもマニュアルの車を運転したことが無い・・)
男はそう思ったが、半ば自棄になって車のエンジンをかけた。
運転を始めてしばらくは、どうしても違和感があったが
夢中で運転するうちにすぐに慣れたことに男は驚く。
シフトチェンジ、ヒール&トゥ・・ほとんど無意識のうちに
男はこなしていた。
(目を瞑っても運転できそうなくらいだ。
さっきの格闘の時といい、経験の無いことでも簡単にこなせるってのは
今の俺にとっては体に染み込んだ行為なのか?)
男の横で女は、時々後ろをふり返り
尾行が居ないか確かめては男に曲がるところを指示する。
一時間ほど運転しただろうか、
やがて郊外の一軒家のところで女は車を停めるように言った。
「ここよ。あなたは初めてでしょうけど、ここが司令部よ」
女が扉の前に立つと、どこからか監視しているのか
扉のロックがカチャリと外れる音がした。
女は先程と同じように素早い身のこなしで扉を開き中へ入る。
男も急いで後に続いた。
建物の一番奥へと女は進み、
突き当たりの扉の前でノックをした。
「入りたまえ」
そう声が聞こえ、女は扉を開けて中へ入る。
部屋の中にはカメラのモニターがいくつかとコンピューターが数台。
男が数人椅子に座ってこちらを見ていた。
「KENT、良く無事だったな・・」
一番奥に座っている初老の男がそう話しかける。
「あの状況で君が助かるとは思わなかった。
正直貴重な人材を失ったかと覚悟したよ。
ところが目の前の君はまるで無傷だ。
・・まったく恐れ入ったよ。
本能的に危険を察知したのか?」
男は曖昧に頷くと、初老の男性は感心したように頷いた。
「そうか。しばらく休暇でも取ってもらいたいのは山々なのだが
現在の状況は非常に良くない。
鍛え抜いた戦闘力とその野獣にも似た直観力・・。
君のその能力を存分に発揮してもらわなければ
女王陛下の悩みの種は尽きないのだ。
すぐにI国へ飛んでくれるか。
残念ながら今回は君の単独での作戦になる。
我々にできることは、現地での物資を用意するだけだ。
I国の空港でFという男が君に接触してくる。
その男から任務の説明と装備の案内をしてもらってくれ。
非常に危険な任務だが、場合によっては発砲しても構わない。
もちろん生還することが最大の任務だ。
よろしく頼む。女王陛下と君に神のご加護を」
男は事態の急展開に戸惑ったが
いずれにしても、まずは現状に適応しなければ
その先のことも意味を成さない。
(大丈夫。さっきの感覚の通りなら
いざという時は体が自然に反応する。
今の俺は鍛えられた諜報部員なんだから)
男は自分に言い聞かせるようにして頷いた。
「では今日は部屋に戻って休んでくれ。
幸い君の部屋はまだ露見してはいないようだ。
変にホテルなどに泊まるよりも目立たない方がいいだろう」
その言葉で、男は部屋を出る。
後ろから女が着いてきて、出口で男に言った。
「気をつけてね」
その言葉が終るか終らないかのうちに
女の唇が男の唇を一瞬塞ぐ。
そして男は司令部を出て車に乗り込む。
一呼吸して集中する。
(体が覚えていることは、集中していれば自然に出るはずだ)
そんなことを思いながら車を走らせる。
来る時の道も、自然に思い出すことができた。
自分の部屋の前に車を停めて男は部屋へと向かい
部屋の鍵を開けて中へ入る。
真っ暗な部屋の中で明かりのスイッチをつけようとした瞬間
男の耳に不吉な音が入る。
カチャリ
そして男の背中に何かの突起物が突きつけられた。
「ゆっくり手を上げるんだ」
ネイティヴではない英語が男の耳元で聞こえる。
そして男は、自分に突きつけられた突起物が
拳銃であることを察した。
(まずい。既に敵に露見していたとは)
男はできるだけゆっくり手を上げながら
この場を切り抜ける方法を考える。
男の背後の人物が部屋の明かりを点ける。
部屋の中には二人だけのようだ。
「抵抗しても無駄だよ。既に建物は完全に包囲してある。
監視カメラの線も切った。
お前の味方がここに救援に来るまでには
ヘリコプターを使ったって15分はかかる。
分かると思うが、我々には15分あれば十分だ」
男の考えていることを見通しているかのように
背後の人物は小声で話す。
(こいつ一人を倒して、窓から飛び降りる。
三階からなら大丈夫だろう。
そして暗闇に紛れ込もう。
15分逃げ切れることができれば応援が来るはずだ)
男は息をゆっくりと吐きながら集中する。
背後の人物に警戒させないように、怯えたような声で言う。
「何かの間違いだ、何のことだか分からない・・。
金ならポケットに入ってる」
背後の人物はクックッと笑いながら言う。
「とぼけても無駄だ。だがバッグと財布は貰っておこう。
我が国では高級品だからね」
その言葉の後に背後の人物の手が男のバッグを取ろうとした。
その時、男は思い切り背後に頭を反らせて、肘鉄を食らわせた。
そして転がりながら胸元のホルスターを探ろうとした。
数秒後。
一発の銃声が響き、男は荒い息を吐いていた。
胸から溢れ出る血は、男の急所に弾丸が当たったことを示していた。
(俺の方が先に撃てるはずだったのに・・)
男は倒れながら、たった今の出来事を思い返した。
拳銃の早撃ちも、当然体で覚えているはずだったし
実際、男の手は、無意識のうちに胸元を探った。
けれど、左脇の拳銃ではなく
男は左手で右肩を探り、虚しく空振りをしたのだ。
慌てて反対側を探ろうとした時には、相手が撃った弾丸が
男の胸を貫いていた。
(まさか・・今の俺が左利きだったなんて・・)
薄れ行く意識の中で、男はそう呟いたが
近づいてくるヘリコプターの爆音にその呟きはかき消され、
男の唇が動くのを見る者も、もう居なかった。
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プロットからして何かの映画のパクリというか
荒唐無稽なこの文章は当時はもう少し長かったと思う。
描写が細かいというか冗長というか。
今回ブログに載せるにあたって、僕は記憶を辿りつつ
ところどころ端折って、さらに若干書き加えた。
当時の僕はまだ汚れを知らない純真無垢な少年だったので
大人の女性のことなど何一つ分からず
女性の絡むシーンなど描きようが無かったのだ。
まぁ今でも分かっているとは言い難いのだけれど。
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