The Outcasts・28-3
ビールで簡単に乾杯をし、刺身や煮物をつつきながら、
僕とニシムラは他愛も無い話をした。
最初のうちは、何か説教でもされるのかと思って身構えていたのだけれど
やがて打ち解けて話もできるようになっていった。
焼酎やら日本酒やらを数杯重ねたころだろうか、
ニシムラが突然言った。
「ちょっと手出してみ」
言われるがままに僕は右手を出す。
するとニシムラは僕の手を握ってこう言った。
「思いっきり握ってみろ」
僕は決して力自慢ではないが
一応は運動部だったから、握力はそれなりにある。
だからいきなり全力を出すのも躊躇われて、8割くらいの力で握った。
「嘘だろ、もっと本気で握れよ」
煽るような口調でニシムラが言い、
僕は最後には全力で握ることになった。
「まぁまぁってとこか。じゃ今度は俺の番だな」
不敵な笑いを浮かべながら、ニシムラが言い
不意に手に力を込めた。
「いてててて」
恐ろしい怪力だった。
リンゴを握りつぶすレスラーがいたけれど
この男はもしかしたら頭蓋骨だって握り潰すかもしれない、
そんなことを思わせるほどの力だった。
時間にすれば5秒も経っていなかったはずだが
ニシムラが力を緩めた時には
僕は思わず手をさすっていた。
「ははは、悪い悪い」
こともなげにそう言うニシムラに僕は尋ねた。
「握力、何kgくらいあるんですか?」
「うーん、80は間違いなくあるよ。
調子がよければ90超えるんじゃないかな」
ニシムラはそう答え、さらに言葉を続けた。
「俺はさ、ガキの頃からチビでさ、よく苛められたんだ。
昔は細かったしな、舐められっぱなしだったよ。
そういう連中に舐められないようにと思ったら体鍛えるしかないだろ。
やっぱりさ、男は舐められたらダメだよな」
なるほど、僕はそう思った。
背が低いということをコンプレックスとして持っているから
ニシムラは体を鍛え抜き、同時に
他人に舐められまいということを自分に課しているのだ。
もちろん、そういった事実で
僕がニシムラへの態度を変えるはずは無かったけれど
コンプレックスの原因が、他者からは窺い知れないということを
改めて気づかされるようにはなったように思う。
そんなある日、僕が出勤すると、
店に3人連れの新規客が来ていた。
打っていたのは30万のバランスのテーブルだ。
年齢は、おそらく40代が2人で1人は30代だったろうか。
中心になっているのは、色の黒い、目付きの鋭い男で、
一見して堅気の人間ではないのが分かった。
かといって、極道でもない。
おそらくは同じような商売、カジノかゲーム屋か・・
そんなことを生業にしているような雰囲気だった。
残りの2人のうち、若い男は、
どちらかというと優男の雰囲気だったが
3人は仲が良いようで、軽口を叩きながらゲームに興じていた。
「誰かの紹介ですか?」
僕はニシムラに近寄っていき尋ねた。
同業のような雰囲気を持つ連中、ということは
誰かの紹介でも無ければ、受けにくいタイプの客だったからだ。
同業というのは、良くも悪くもこの世界について知り尽くしているだけに
ちょっとした粗相で因縁を付けられたりもしかねないし
負けが込めば、返金だのサービスだのと言いかねない。
それに、これから自分が接客する上で、
その客がどういう経路で来たかを知っておくのは会話もしやすい。
「うん、一人は歌舞伎町のハウスで何回か見たこともある。
残りは知らないけど、店も暇だし受けないわけにもいかないしな」
ニシムラはそう言って、彼らの遊び方をずっと見ていた。
もちろん僕も別の角度から観察したのだけれど
彼らの遊び方には特に不審な点は無く、
数時間後、1人が負けて「パンクだ」と言ったところで
他の2人も持っていたチップを換金して帰っていった。
3人でトータルすれば10万も浮いていなかったが
財布が一緒かどうかはもちろん分からないから
それ自体は致し方のないことではあった。
3人が同じ懐なら10万の勝ち、
別々の懐なら、1人が負けで2人が勝ち、
ただそれだけのことだ。
彼ら3人の遊び方がサービス目当てで無い限り、
それをとやかく言うことは出来ないし
彼らの遊び方は、特にサービス目的とまでは言えなかった。
ベット自体はせいぜい張って5万くらいだったけれど
遊ぶ時間の長さを考えれば、サービス分は確実に控除できていたからだ。
そして彼らは、その後もちょくちょく顔を出すようになった。
他の客がいる時は、3人で寄り添って、
他に客がいない時は、それぞれ好きな席に座って
冗談や野次を飛ばしながら彼らはゲームに興じた。
ニシムラや僕を含めた他の黒服にも彼らは懐っこく話しかけ、
時々差し入れと称して、屋台で売っているたこ焼きなどを持ってきたりもした。
物に釣られたわけではないけれど、彼らの遊び方と態度を見ていれば
特別扱いはしなくても、必要以上の警戒まではしなくなっていった。
そう、言ってしまえば、ごく普通の常連客へとなっていったのだ。
もちろん、ある日までは、だったのだけれど。
・
| 固定リンク
「The Outcasts(読切り短編)21~30」カテゴリの記事
- The Outcasts 外伝・Nobody but she told me.・3(2009.05.11)
- The Outcasts 外伝・Nobody but she told me.・2(2009.05.10)
- The Outcasts 外伝・Nobody but she told me.・4(2009.05.12)
- The Outcasts 外伝・Nobody but she told me.(2009.05.09)
- The Outcasts・30-5(2009.03.14)




コメント